ブロックチェーンの投資額が遂にビットコインを超えた【2016年上半期】
この記事は、100枚のスライドからなる報告の一部に焦点を当てている。報告全文はこちらから自由に閲覧可能となっている。
ブロックチェーンの盛り上がりはおさまり始め、起業家や組織はブロックチェーン実行へ本腰を入れており、新たな議論が巻き起こっている。
業界の評論家で意見が分かれるのは次の質問である。
「急激に変革を巻き起こすブロックチェーン技術の影響を1,2年の短期間で目撃することになるのか?あるいは、ブロックチェーン技術が広範囲で適用され完全に成熟するまで5~10年、それ以上の年数という現実的な期間になるのか?」
マーク・アンドリーセンがニューヨークタイムズ紙に、ビットコインがいかに1993年ごろのインターネットを思い起こさせるかという論評を掲載してからおよそ2年半が経過した。彼の予想では、わずか数年のうちにWeb1.0で世界一のCiscoに匹敵するブロックチェーン企業が現れるだろう。
対照的に、作家でありコンサルタントでもあるクリス・スキナーから、モルガンスタンレーのような金融機関に至るまでの一連の意見では、ブロックチェーンの成熟と適用にはアンドリーセンが予想しているより時間がかかると見ている。
言い換えれば(インターネットとの類似性について言及すると)、懐疑論者からすると、ブロックチェーン適用はインターネットでいうところの1990年代初期よりも、むしろ基礎プロトコルTCP/IPが発明された1970-80年代に近い。
この議論のどちらが正しいかはまだわからないが、この業界への投資は信じがたいほど高く、ベンチャーキャピタルにより10億ドル以上投資されている。
このような背景の中、我々は第1四半期における重要な傾向を振り返ることにする。
起業の持ち直し
2016年第1四半期時点で、ビットコインやブロックチェーンのスタートアップへのベンチャーキャピタル投資は今や11億ドルを超える。
おそらくもっと重要なのは、数回の四半期におよんで下降傾向だった投資額が2016年第1四半期に急上昇したことだろう。2016年に入って数か月で投資総額も取引平均額ともに持ち直した。(スライド15)
これらの投資により、ビットコインやブロックチェーン業界は軟化しつつあったベンチャー投資全体に大きな印象を与えることとなった。ブロックチェーン技術への投資家からの熱い視線は、この業界が下降気味だった投資トレンド一掃の役目を担っている。
投資家はブロックチェーンへ
2015年における業界の大きな流れとしては、ビットコイン通貨の根本的な技術、いわゆるブロックチェーンや分散型帳簿システム(DLT)と言われる技術に対する注目が強かった。
この傾向は2016年第1四半期も継続し、何らかブロックチェーン主体の言及をしている伝統機関(政府、中央銀行、金融機関、その他大手企業含む)の数はさらに増加している。
2016年第1四半期も、伝統機関によるブロックチェーンに関する言及は引き続き増加(スライド83)
しかし、我々がこれまで述べてきたように、“ブロックチェーン”の定義は混乱しており、この混乱により、ブロックチェーンと同じ基本的な考えや原則を表すのに使用されている別の言葉も見ることがある経験者も、初めてブロックチェーン技術を知る人にも苛立ちを与える。
そこで、この報告では、基本的なブロックチェーンの違いや類似性をわかりやすくするために、分類および概念枠組みを説明したスライドを選んでいる。
まず初めに、我々はビットコインとブロックチェーンのスタートアップを分類した。
ビットコインは「支払い」、「為替取引」、「送金」やその‘通貨’行為に着目したあらゆる仮想通貨に関わるスタートアップとする。
ブロックチェーンは、「証券決済」、「財産所有権」、「資産所在」といった‘通貨以外’の行為に着目している。(ビットコインとブロックチェーンのハイブリッドもある)(スライド19)
■上図の翻訳——
・ビットコインのスタートアップは支払い、為替取引、送金やその‘通貨’行為に着目したあらゆる仮想通貨に関わるものとする。
・ブロックチェーンは、証券決済、財産所有権、資産所在といった‘通貨以外’の行為に着目している。(ビットコインとブロックチェーンのハイブリッドもある)
・我々はさらに多くのビットコインスタートアップが、ブロックチェーンやハイブリッドのビジネスモデルへ注力すると予想している。
—————–
去年に比べて4倍のブロックチェーン/ハイブリッドのスタートアップが存在している。ブロックチェーンとハイブリッドのスタートアップは、2016年第1四半期に初めてビットコインよりも多くの資金を集めた。(スライド21)
第1四半期終了時点での、ブロックチェーン/ハイブリッドのスタートアップ投資の回数はビットコインの2倍だったことは注目に値する。
つまり、業界のブロックチェーンに対する方向転換は進行しているのである。
ビットコインのロールシャッハテスト
ブロックチェーン技術は、ある種ロールシャッハテストに似ている。ロールシャッハテストは、1920年代に発展した精神分析法で、左右対称のインクのしみが何に見えるかということから個人の人格を示すというものである。同じインクのしみを見ても、人によって全く異なるものに見える場合がある。
同様に、ブロックチェーン技術を、同意を獲得しパブリックの取引記録を共有するという公開された承認不要システムとして捉える人がいる。一方で、半分公開あるいは完全にプライベートアクセスなデータベースの承認システムと見なす人もいる。
パブリック(あるいは公開)またはプライベート(あるいは承認制)のブロックチェーンの利点や展望に関する議論はかなり行われている。様々な目的に役立つブロックチェーン技術の可能性や柔軟性は、その強力な資質の一つである。
パブリック | プライベート | |
---|---|---|
アクセス | データベースへの読み取り/書き込みアクセスは公開 | データベースへの読み取り/書き込みアクセスは承認制 |
速さ | 遅い | 速い |
安全性 |
Proof-of-Work(取引認証の仕事量) Proof-of-Stake(保有しているコイン量) |
事前承認された参加者 |
身元 | 匿名、ペンネーム | 特定された個人 |
資産 | 自国の資産 | 不特定多数 |
パブリック(公開)vsプライベート(非公開)
ブロックチェーン:一般的な特徴比較
ブロックチェーンのプラットフォームとソフトウェアについての議論はあまり多くされていない。
ブロックチェーンプラットフォームは、iOSやFacebookといった他の技術のプラットフォームと似ている。これらは、オープンAPI、ソフトウェア開発キット(SDK)や標準プロトコルを通じて外部の開発者がプラットフォーム上にアプリケーションを構築することを可能にしている。
イーサリアムやビットコインはパブリックブロックチェーンプラットフォームの代表であり、RippleやBlockstreamといった企業はプライベートブロックチェーンプラットフォームの代表である。(スライド10)
■上図翻訳——
(スライド10)ブロックチェーンは‘プラットフォーム’と‘ソフトウェア’供給という観点でさらに区別することができる
・プラットフォーム(例 Facebook、iOS)は、外部の開発者がプラットフォーム上にアプリケーション構築可能
・ソフトウェア(例 Oracle 12c DB)は、しばしば組織内だけで、外部開発者へは非公開
・R3やDAHなどがプラットフォームになり得るか不明
—————
プラットフォームに比べ、ブロックチェーンソフトウェアはOracleのような企業に非常に似ている。内々で使用されるよう設計されていたり、外部開発者のアクセスが厳しく制限されるようなソフトウェアパッケージを提供している。
ブロックチェーン企業のChainは、プライベートブロックチェーンのソフトウェアの提供者として例に挙がってくる。10社共同で承認制のプロトコルを構築したというChainによる最近の発表は、プラットフォームへの移行を試みていることを示唆している。
シリコンバレーのベンチャーキャピタル間で従来から認識されているのは、ビジネスが理想的な投資を象徴するプラットフォームになり得るということである。しかし、ブロックチェーンプラットフォームとソフトウェア提供者の区別の目的は、様々なブロックチェーンビジネスモデルの利点を判断するためではない。
実際、4つのプラットフォーム/ソフトウェアのカテゴリーどれも成功を成し遂げるであろう。それよりも、スライド10で描かれている分類によって、どのブロックチェーンが主導していくかを見ることができる。
ブロックチェーンマトリックスで密集している上位2つはパブリックプラットフォームと、プライベートソフトウェアのエリアと読み取れる。例えば、アルトコインに代表されるパブリックブロックチェーンは文字通り何百も存在する。
さらに特記すべきは、上記分類は変動するものであるということである。R3やDegital Asset Holdingsのようなプライベートブロックチェーンの先駆者は、契約企業に対しスタンドアローンソフトウェアを提供している。どちらも、早い段階で臨界量を獲得しており、結局はプラットフォームになるかもしれない。
先進国におけるブロックチェーン
初期の頃からブロックチェーンが集中していたエリアは、ブロックチェーンへのベンチャー投資や提携の恩恵も一部受けている。
ビットコイン投資同様に、アメリカはブロックチェーン投資を独占し続けている。アメリカでは、ビットコイン、ブロックチェーン、ハイブリッドのスタートアップそれぞれ同額程度の投資がされている。
アメリカ以外の国で初期段階にブロックチェーン投資の先頭に立っていたのは、イギリス、イスラエル、スウェーデン、ドイツ、アルゼンチンを含む国々で、重要なブロックチェーンのベンチャー投資の注目を集める発展途上国は1ヶ国だけだった。(スライド17)
上図:ブロックチェーン初期投資が集中しているのは、アメリカ、イギリス、イスラエル、アルゼンチン、スウェーデン、ドイツ
2015年第4四半期にブロックチェーンのニュースはR3CEVで持ちきりだった。40以上の銀行や金融機関が提携先として検討されていると言われている。
しかし、R3が初期段階で組織的に重要な金融機関と共同していったことは、Hyperledger Project、Digital Asset Holdingsのような他のブロックチェーン主要企業が重要な組織や投資家と同様の提携を行うことにマイナス影響を与えることはなかった。(スライド88)
上図:Hyperledger Projectの提携先は40社以上にもなる
イーサリアムの登場
2015年がブロックチェーンの年であるのと同様、2016年第1四半期は、広く認知されたという点でほぼ間違いなくイーサリアムの進歩の四半期だった。
ビットコインとは異なり、DLT(分散型帳簿システム)はイーサリアムで元々使用されていた‘キラーアプリケーション’-スマートコントラクト-と言われている。この特徴は、(詳細は後述する)ビットコイン開発で見られる停滞を避けることに結びつく。これにより、イーサリアム界はMicrosoftのAzureプラットフォームへの統合や、UBS、R3およびその他企業によるイーサリアムに関する目立った活動を含む数多くの成功を収めてきた。
これらのポジティブな開発に応えて、イーサリアムの元々のトークンであるetherの価値は2016年第1四半期にビットコインと比較して1,300%も急上昇した。(スライド61)
上図:2016年第1四半期における仮想通貨の実績上位
ビットコイン価格の変動は落ち着く
価格の変動幅という点においては、ビットコインの価格は過去2年間で最も変動が少なかった四半期の一つである。しかし、ビットコイン価格の変動が少ないことは必ずしも良い傾向ではない。
ビットコインは2015年では最も実績のある仮想通貨だった。しかし2016年においては今のところ他の通貨に出遅れている。ビットコインの価格は、フィンテック企業で一般取引される主要通貨にも後れを取っている。その通貨はフィンテック株との相関性が比較的低いにもかかわらず(0.38)。
2016年第1四半期におけるビットコイン価格のポジティブな開発は、取扱いデータ量の拡大と、来る2016年7月に新たな採掘報酬の配分が行われることである。
しかし、これらのポジティブな開発は、ビットコインの代替(すなわちイーサリアムや、ブロックチェーン技術を使用した通貨以外のもの)への熱狂や、比較的落ち着いているマクロ経済、そして(最も重要なのは)ビットコインが主流となる‘キラーアプリケーション’を持っていないことによって打ちのめされてしまう。
総じて、ビットコイン価格は強気と弱気の狭間で、どちらの方向にせよ勢いを獲得するためにもがいた。
オープンソース政策
ビットコインが政策的挑戦をしている中、イーサリアムの最近の進展は、オープンソース革命と統治における考え得る重要な発案者に焦点を当てている。
数年前にナカモトサトシが論述した“統治者の不在”への移行(サトシは約100万BTCを所有していると予測されている)は、ビットコインに新たな発想をもたらし、プロジェクトに責任をもって遂行できる有能なソフトウェア開発者や起業家が現れる可能性を生み出したとポジティブに捉えられている。
サトシの不在により、ビットコインはこれまでにない程(少なくとも通貨に代わるものとして)メディアの注目を集め、想像を膨らませる謎めいたものとなった。
しかし、今でも発案者が活動しているその他のオープンソース先駆者は、現在のビットコイン政策停滞のように苦労していることはない。(スライド63)
上図:ビットコインのブロックサイズ行き詰まりは、統治や改革において考え得る重要な発案者に焦点を当てる
■上図翻訳——
・現在まで、イーサリアム界はビットコインのブロックサイズ議論のような改革失速を避けている
・リナックス界は従来、論争を避けるためにクリエイターLinus Torvaldsを頼っている
—————
実際、ビットコイン作成におけるCraig Wrightの役割に関する最近の憶測や議論は、Craigの表明やその他ブロックサイズ議論に紐づく。
元記事
CoinDesk